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観能10年10カ月から

   (その9)

  佐野 萌の「羽 衣」

   この曲は、能の代表的な曲で且つ人気曲、上演頻度も極めて高い。私の観能暦10年10カ月で、
   37回観てきた。宝生流の長老 佐野 萌 (故人 平成21年逝去 享年81) が、平成20年2月10日
   「宝生会月並能」で舞った「羽衣」が印象深い。



    シテ:佐野 萌  ワキ:野口敦弘 ツレ:野口能弘・野口琢弘
    笛:一噌仙幸 小鼓:曽和正博 大鼓:安福建雄 太鼓:金春惣右衛門
    地頭:三川 泉 主後見:渡邊荀之助

   これまで、「羽衣」を11回観てきたが〈これぞ「羽衣」〉と言う舞台に、お目にかかった
   ことがない。だが、今日の 萌の舞台を観て大いに満足した。

   現在の宝生流は、英照宗家が平成18年に実質引退 (註:平成22年4月1日逝去 享年52) して、
   長老と言われる、三川 泉 (人間国宝・86)、今井泰男 (87)、近藤乾之助 (80)、佐野 萌 (80)
   らが引張ってきた。

   私自身、萌の舞台はあまり回数観てないが、17年9月に観た老女物の「姨捨」が強く印象に
   残る。自然体で演じる、巧い役者だなあと思った。
   
   小書に盤渉が付いて、「太鼓盤渉序之舞」が演じられた。大きな袖を羽のように広げ、大空
   で羽ばたく鳥のように軽々と舞った。その天女の出立は、黒地紅入縫箔腰巻に薄黄色の舞衣、
   月輪の天冠を着け、面は宝生名物「泣増」を掛ける。舞台に映えて、実に美しい。

   囃子方は超一流の面々、地謡は地頭 泉始め実力者ばかりで構成。ワキ 敦弘の弱さが懸念され
   たが結果は吉と出て、シテを盛り立て勢いつかせた。全体に、調和の取れた好舞台であった。

                            (平成20年2月13日 記)





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10年10カ月 | 09:08:49
観能10年10カ月から

  (その8)

 友枝昭世の「隅田川」

  故 片山幽雪師のご逝去もあり、暫く中断していた〈観能10年10カ月から〉、印象に残った舞台を
  紹介する。平成22年(2010)12月11日の、能楽協会主催「ユネスコ能」第三回公演、 友枝昭世の
  「隅田川」である。
  昭世は、喜多流職分会の代表で人間国宝 (平成20年認定)、人気・実力とも能楽界の最高峰。今迄
  45回のシテ舞台を観てきたが、不出来と言う舞台は皆無である。だが、如何なる名優でも曲種・
  曲柄により、得手不得手はある。
  名曲「隅田川」の 昭世の舞台は、平成19年1月24日と、紹介する22年12月11日の2度観ている。


  
   シテ:友枝昭世  子方:友枝大風  ワキ:森 常好  ワキツレ:舘田善博
   笛:一噌仙幸 小鼓:曽和正博 大鼓:安福建雄  地頭:粟谷能夫 主後見:香川靖嗣

  主人公は、我が子梅若丸を人商人に攫われて心乱れた母 (狂女) である。遥々都から我が子を尋ね
  て、東国隅田川に辿り着く。だが、母の前に現れたのは梅若丸の亡霊であった。大小前に、小さ
  な作り物の塚を出す。

  昭世 (昭和15年3月24日生れ 70才) の「隅田川」は、3年程前に1度観ている。
  その時の印象は、「何とも不満が鬱積する舞台であった。昭世の芸が完璧で美し過ぎて、観る者
  の胸に打つものがなかったのだ。悲劇のドラマ (観客は皆そう思っている) であれば、もう少し
  泥臭い演技があってもよさそうなものだ」であった。

  能劇も、あまりリアル感を出し過ぎると能で無くなる。だが、今日の 昭世は、母の真情を美しく
  昇華させ、観る者をぐいぐいと舞台に引きつけた。1度目の舞台とは異なり、心に響く正に名演
  技であった。(上演時間80分)
                            (平成22年12月11日 記)





10年10カ月 | 09:25:23
巨星堕つ! 片山幽雪師 逝去

 片山幽雪師 逝去

  文化功労者・日本芸術院会員で人間国宝の 片山幽雪師(観世流シテ方・京都在住) が、13日敗血症で
  亡くなられた。(享年84) 九世 片山九郎右衛門 (本名 片山博太郎)、銕仙会の観世華雪・雅雪に師事。

  母は京舞の四世 井上八千代、長女は五世 井上八千代 (銕仙会現当主 観世銕之丞の妻)、長男は十世
  片山九郎右衛門、孫に 清愛 (子方) がいる。

  私は、幽雪師のシテ舞台を14度拝見している。最も印象に残る舞台は、平成25年5月29日の、国立
  能楽堂開場30周年記念の特別企画公演「関寺小町」である。老女物の秘曲「関寺小町」、国立能楽堂
  の開場から、30年目にして初めての上演という。

  当日の「能 観まんま」から、観賞記録と感想を紹介して、幽雪師のご冥福をお祈りしたい。


  「関寺小町」
    シテ/小野小町 (老女) 片山幽雪   
     子方/関寺の稚児 片山清愛
     ワキ/関寺の住職 宝生 閑  ワキツレ/従僧 宝生欣哉・則久英志・大日方 寛
     囃子方/笛 藤田六郎平衛・小鼓 大倉源次郎・大鼓 山本哲也
     地謡/後列 地頭 梅若玄祥 副地頭 片山九郎右衛門 観世喜正・梅田邦久
        前列 山崎正道・味方 玄・味方 團・角当直隆
     後見/主 観世清和 副 大槻文蔵 青木道喜 

   能柄:三番目・老女物 所:近江・関寺 季節:秋・七月 作者:世阿弥
   作り物:大小前・藁屋 (横桟に短冊)

  老女物五曲 (関寺小町・檜垣・姨捨・鸚鵡小町・卒都婆小町) の中でも、最奥の秘曲と言われる
  「関寺小町」。今までに、4度 (梅若万三郎・今井泰男・観世清和・金春安明) 観てきた。

  能楽界の重鎮で人間国宝の、片山幽雪 (82才)・宝生 閑 (79才) の共演である。また、三代 (幽雪・
  片山九郎右衛門・清愛)、父子 (閑・宝生欣哉) の貴重な共演舞台でもある。

  囃子方は名手ばかり、地謡も 玄祥・九郎右衛門の他 実力者を揃えた。後見座には、清和宗家・
  文蔵らが付いた。清和は、前段の大半を、作り物の藁屋 (シテが着座している) の直ぐ後方に控え、
  幽雪の一挙手一投足を注意深く見守った。

  関寺の住職らが稚児を伴い、歌道を極めたと言う老女を尋ねる。藁屋の老女は、老残の境遇を嘆
  きながら、和歌の心得を説き懐旧の心を顕わす。

  藁屋の引き廻しが下ろされると、中には 幽雪が静かに着座している。閑が柔らかみのある謡で
  問いかけると、幽雪がとつとつとした謡で応える。だが、残念ながら 幽雪の調子が今ひとつ上
  がらず、後ろに控えた 清和が再三助け舟を出す。

  老女の正体が小野小町の成れの果てと判ると、僧は小町を七夕祭りに誘い出す。渋る小町だが、
  僧の助けを借り杖にすがって藁屋を出る。祭りの童舞を見ていた小町、次第に気分が高揚して、
  自らも杖をつき扇を持って舞 (「序之舞」) を舞い始める。

  中段ころからが 幽雪の真骨頂、〈藁屋で立上がり、出てのハコビ、そして舞い〉を、老体その
  まま自然体の姿で演り遂げる。正直なところ、前段は 幽雪をはらはらして観ていたが、クリ・
  サシ・クセ 以降、気力横溢して正に名人芸を見せてくれた。

  「序之舞」は凡そ20分余、途中シテ柱を背にして座り込む (休息)。その姿が、小さく、愛らし
  く、そして品もあって … 。隅々まで魅せてくれる、幽雪の至芸に酔った。

  終曲、橋掛りをこつこつと杖を鳴らして去る 幽雪に、「いつまでも、お元気で」と、思わず心
  の中で呟いた。(上演時間 105分)
                            (平成25年5月31日 記)





能楽関係の話題他 | 11:45:21
「二人展」のご案内

  能面打の 岩崎久人氏と、写真家の 森田拾史郎氏の「二人展」が、東京銀座の画廊で開催される。

  岩崎氏は1945年生れの69才、氏の打つ面は多くの能楽師により舞台に掛けられている。氏は、
  「面は美術品ではない、道具だ」が持論。
  森田氏は1937年生れの77才、武蔵野美大卒。能楽写真家の第一人者で、写真集・著書多数有り。

 
   会 場「かわべ美術」
        中央区銀座4-13-3 ACN HIGASHIGINZA BLDG 2F Tel 03-3542-3988
         東京メトロ「東銀座駅」5番出口より徒歩1分

   期 間 2015年(平成27年)1月20日(火)〜29日(木) 
        12:00〜18:00   24日(土) 12:00〜17:00  25日(日) は お休み





展覧会等 | 07:20:21
1月・2月の観能予定

 観能予定

  今年の能楽鑑賞は、私自身の健康管理のため、公演数を月4〜5回それも極力昼間の公演を
  優先することにいたします。好きな曲目、好みの能楽師を選んで鑑賞いたします。

 1 月
   4日(日) 観世能楽堂「観世会定期能」(鑑賞済み)
         「 翁 」 翁 観世清河寿  面箱 山本則俊  三番三 山本則秀
              千歳 観世三郎太
              小鼓 頭取 大倉源次郎 脇鼓 田邊恭資・鵜澤洋太郎 
              笛 一噌隆之 大鼓 亀井広忠
        能 「高 砂」 武田尚浩  「吉野天人」 小書:天人揃 関根祥六 
          「金 札」 山階彌右衛門
       狂 言「末 広」 山本東次郎
   12日(祝) 宝生能楽堂「銕仙会定期公演」
         「 翁 」 翁 観世銕之丞  面箱 内藤 連  三番叟 石田幸雄
              千歳 観世淳夫
              小鼓 頭取 大倉源次郎 脇鼓 田邊恭資・清水和音
              笛 松田弘之 大鼓 柿原弘和
        能 「葛 城」 小書:大和舞 清水寛二  「恋重荷」 山本順之
       狂 言 「成上り」 野村萬斎
  17日(土) 観世能楽堂「七拾七年会」特別公演
        能 「夜討曽我」小書:十番斬 武田文志 武田宗典
          「石 橋」(半能) 武田文志 武田宗典
       狂 言 「花 子」 山本則重
  25日(日) 観世能楽堂「第28回 檀の会」
        能 「清 経」 松本崇俊  「安 宅」小書:勧進帳・瀧流 松木千俊

 2 月
   8日(日) 宝生能楽堂「宝生会月並能」
        能 「草紙洗」 辰巳満次郎  「船 橋」 東川光夫
       狂 言 「千 鳥」 山本則俊
   17日(火) 国立能楽堂 鎌倉能舞台45周年記念公演「乱 能」 
          「 翁 」 翁 野村万作 (狂言方)
        能 「吉野天人」(半能) 一噌隆之 (笛方)  「安 宅」 飯田清一 (小鼓方)
          「鉄 輪」 善竹十郎 (狂言方)  「土蜘蛛」 大蔵千太郎 (狂言方)
          「高 砂」(半能) 観世元伯 (太鼓方)
       狂 言 「六地蔵」 舘田善博 (ワキ方)  「蝸 牛」 馬野正基 (シテ方)
   19日(木) 国立能楽堂「国立能楽堂企画公演」
        能 「花 筐」古作  大槻文蔵 (観世流)
   28日(土) 国立能楽堂 第二十四回「若手能」
        能 「敦 盛」 大島輝久 (喜多流)  「葵 上」清水義也 (観世流)
       狂 言 「昆布売」 深田博治





雑亊記 | 07:10:28
観能10年10カ月から

   (その7)

   柴田 稔の「隅田川」

    平成19年10月24日(水)、銕仙会能楽研究所「銕仙会青山能」での名曲「隅田川」の公演。
    観世流の中堅処、稔 (当時50才) の舞台である。大学出の能楽師で、昨年11月に舞台生活
    30周年記念で「道成寺」を舞った。「隅田川」は、今迄通算37回観てきたが、稔の舞台は
    12回目に当る。
    

     シテ:柴田 稔  子方:後藤真琴  ワキ:宝生欣哉  ワキツレ:大日方 寛
     笛:内潟慶三 小鼓:大倉源次郎 大鼓:国川 純 地頭:浅井文義 主後見:山本順之

    名曲中の名曲で人気曲だが、母子再会を果たせない悲劇の能である。名手が演じると、多
    くの観客が目頭を抑える。名手・名人でなくても、演じ方によっては観る者の心を打ち、
    涙腺を弛ませる。今日の 稔は、見事にそれを実証した。

    幕からの出は酷かった。緊張のためか 稔の謡はうわずり、狂い笹を持つ右手は異常に震え、
    ハコビもぎごちなかった。目深に被った笠が揺れ、当方もはらはらした。
    それを救ったのが、ワキ 欣哉の重厚でゆったりとした受け。地謡陣も、しっかりと支えた。
 
    渡守の語り、「父の名字を尋ねて候へば、我は都北白川に吉田の何某と申しし人の … 」で
    狂女は、その子が探し求める我が子だと覚る。稔の、作らない自然の所作が、効果的に働
    く。緊張の震えが、却って母の悲しい心情を増幅させた。その時 稔は、演技を超えて、
    愛児を失った悲劇の母、そのものであった。

    以降の 稔は、前段の不出来を超えて、独壇場の名舞台となった。子方も愛らしかった。
    思わず胸が熱くなった。
                           (平成19年10月27日 記)





10年10カ月 | 11:10:24
観能10年10カ月から

  (その6)
    
  鵜澤 光の「葵 上」

   平成25年3月8日(金)、観世流・銕仙会定期公演での舞台。四番目鬼女物の「葵上」は、通算
   41回観てきたが、女流能楽師がシテを勤めたのは 光だけ。母親の 鵜澤 久は、女流の第一人者
   として定評があるが、若い 光も成長株である。


    シテ:鵜澤 光  ツレ:観世淳夫  ワキ:舘田善博  ワキツレ:森 常太郎
    アイ:山本則俊  笛:藤田次郎 小鼓:田邊恭資 大鼓:柿原光博 太鼓:梶谷英樹
    地頭:清水寛二 副地頭:西村高夫  主後見:山本順之 副後見:鵜澤 久

   光は、25年12月23日の「鵜澤 雅十七回忌追善能」で、大曲「道成寺」を舞う (披キ)。その
   ためにも、「葵上」を舞っておきたいと言う。気合い充分、迫力ある素晴らしい舞台を見せて
   くれた。

   般若の面を掛ける曲は、「安達原 (黒塚)」「葵上」「道成寺」だけ。昨年9月に、「安達原」
   を観たので、「葵上」を観ればアトは「道成寺」だけ。12月の披キが楽しみである。
 
   今日の舞台では、5人の次世代のホープが共演した。光の他、ツレ 淳夫、ワキツレ 常太郎、
   小鼓 恭資、大鼓 光博らである。

   光は、謡にしても型や所作にしても、女流を感じさせない力強さがある。淳夫は未だ20才、資
   質は十分にある。常太郎は姿態がよく、芸も徐々に向上している。恭資は、師の 源次郎に増々
   似てきた。光博の掛け声は父の 崇志似、打音の強さは兄 弘和に近づいた。
   彼ら若手が、年々成長して行くのが判り嬉しくなる。
                            (平成25年3月10日 記)





10年10カ月 | 08:15:41
観能10年10カ月から

   (その5)

   高橋憲正の「清 経」

    平成25年9月14日(土)、宝生流九月「五雲会」公演での舞台。
    憲正は、金沢市出身昭和51年生れの38才。宝生宗家の内弟子を経て、平成19年に独立した
    若手精鋭。東京芸大では、坂口貴信 (観世流) と同期で親友同士。産經新聞の「花形出番で
    す」(26.11) にも登場 (貴信は、26.4 登場)。両者とも、次代の能楽界を背負って立つ逸材。

 
     シテ:清経の妻 憲正  ツレ:清経の妻 朝倉大輔  ワキ:淡津の三郎 福王和幸
     笛:槻宅 聡 小鼓:飯冨孔明 大鼓:亀井洋佑  地頭:金森秀洋 副地頭:東川光夫
     主後見:小林与志郎 副後見:朝倉俊樹

    若手実力者の 憲正、期待に違わず良い舞台を見せてくれた。芯のあるしっかりとした謡、
    柔らかみのある型と所作、日頃の修錬が舞台の上に出ている。

    妻役ツレの 大輔 (22才)、謡が一本調子で明瞭さを欠くが、なかなかの健闘である。長い
    下居姿が崩れず美しかったが、終演で幕へのハコビが粗雑であったのはよくない。
                           (平成25年9月16日 記)





10年10カ月 | 09:05:30
新年のご挨拶

  新年 2015年 (平成27年) 明けましておめでとうございます。

  今年の能楽鑑賞は、月間4〜5公演に絞って、それも成る可く昼間の公演に行こうと
  思っています。

  本年も、どうぞよろしくお願い申し上げます。




雑亊記 | 05:56:39

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