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Author: 能楽兎者こと及部和良      (のうらくとしゃ)
     
   能楽鑑賞
    (初鑑賞 2004 - 01 - 16)
   油彩画制作
     ( 1994 〜 )
   海外・国内旅行

   能楽鑑賞数 (本年)
    能 鑑賞数  200 番
      (通算 1,245 番)
     現行曲鑑賞 211 曲
    狂言 鑑賞数 100 番
      (通算 650 番) 
    鑑賞公演数 (通算)
        688 公演

   Blog 開設
     2007 - 05 - 17                                

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「銕仙会青山能」
11月25日(水) 雨後晴  銕仙会青山能公演  於:銕仙会能楽研修所
                       開演 午後6時30分〜終演 8時40分
 11月の銕仙会の青山能公演で、能1番・狂言1番・仕舞1番の上演。小振りな見所は、
 8分 (160人ほど) の入りである。

「忠 度」
  シテ/前 尉・後 薩摩守忠度の霊 馬野正基 (観世流)
   ワキ/旅僧 殿田謙吉 ワキツレ/従僧 大日方 寛・梅村昌功
   アイ/里人 高野和憲
   囃子方/笛 内潟慶三・小鼓 森澤勇司・大鼓 原岡一之
   地謡/頭 小早川 修・副 浅見慈一 後見/主 浅見真州・副 谷本健吾

  典拠:「平家物語」「源平盛衰記」 能柄:二番目・修羅物 所:摂津・須磨の浦
  季節:春・三月 作者:世阿弥

 主人公は、一ノ谷の合戦で討死した平家の公達 平忠度で、文武二道 (歌人・武人) に
 秀でた人物。戦場で、岡部六弥太に首打ち落とされるが、箙につけた短冊に「行き
 暮れて 木の下蔭を宿とせば 花や今宵の主ならまし」と、辞世の一首を残す。

 前段は、須磨の若木の桜・月の須磨の浦辺・蜑の呼び声屡啼く千鳥・藻汐焚く夕煙
 など、修羅能らしからぬ風雅な詞章が並ぶ。が、一転後段は、熾烈な戦の有様を、
 仕方語り・立廻りで示す展開となる。修羅道の苦患よりも、和歌への執心を強調した
 曲で、曲趣は爽やかで暗さはない。

 銕仙会の若手の実力派 馬野正基 (44才) が、期待通りの技量・力量を発揮して、見
 応えある舞台を作り上げた。
 豊かな声量に巧みな謡、歯切れのよい型や所作、ケレン味のない真摯な芸が、彼の
 魅力だ。時おり見せるドロ臭さも、彼の成長途上の証しとして微笑ましい。
  (90分)  199/1244

観能記 | 11:24:00 | コメント(0)
「横浜企画」公演
11月23日(祝) 晴  横浜能楽堂企画公演  於:横浜能楽堂
                      開演 午後2時〜終演 4時50分
 横浜能楽堂企画公演「英雄伝説 義経」の第三回「壮絶!屋島の合戦」で、能1番と
 琵琶・語り1番の上演。
 この企画公演は第六回迄で、第四回「安 宅」梅若玄祥 (観世流)、第五回「摂 待」
 香川靖嗣 (喜多流)、第六回「忠 信」宝生和英 (宝生流) と続く。
 見所は 満席である。

「八 島」小書:奈須与市語
  シテ/前 漁翁・後 源義経の霊 櫻間金記 (金春流)
   シテツレ/海士 柴山 暁
   ワキ/旅僧 工藤和哉  ワキツレ/従僧 梅村昌功・野口能弘
   アイ/浦人 野村万作
   囃子方/笛 一噌幸弘・小鼓 曽和正博・大鼓 柿原光博
   地謡/頭 本田光洋・副 吉場廣明 後見/主 守家泰利・副 山中一馬

  典拠:「平家物語」「義経記」 能柄:二番目・修羅物 所:讃岐・屋島
  季節:春・三月 作者:世阿弥

 主人公は、九郎判官義経である。
 前場では、漁翁 実は義経が 源平の八島の合戦の模様〈総大将義経の勇姿・悪七
 兵衛景清と三保谷四郎の錣引き・佐藤嗣信の討死など〉を語り、中入ではアイの
 仕方話〈奈須与市扇の的落とし〉を、後場では、義経の亡霊自ら〈弓流し・修羅
 道での能登守教経との壮絶な闘い〉を物語る。

 戦の名場面が、巧みに折り込まれた修羅能の大作で、演者にはスケールの大きな
 演技が求められる。「箙」「田 村」と並ぶ〈勝 修羅能〉で、観世流は「屋 島」
 と記す。11度目の鑑賞。

 シテ 櫻間金記 (65才) は、金春流では 本田光洋 (67才) と並ぶ実力者で、ハイ
 レベルの技量・力量を有する。声量があまりなく美声でもないが、味わいのある
 巧い謡である。体躯は小柄で細身であるが、装束を着け面を掛けて舞台に立つと
 存在感が際立つ。型や所作がしっかりしており、玄人受けする役者と云える。

 果たして今日も、金記らしい技を魅せた好舞台であった。
 特に後場の、端正な面「平太」を掛けた甲冑姿が、極めてバランスが良く、立ち
 姿が大きく見える。仕方話・カケリの動きが出ると、ますますそれが増幅された。
 終曲、ハイテンションがそのまま持続して、心地良い留めとなった。

 ツレ役の若い 柴山 暁 (27才) が健闘したが、謡にやや不安定さがある。前場の
 シテとの連吟が、あまり聴き心地よくなかった。
 秀逸は、小書:奈須与市語による 野村万作 (78才) の仕方話の語り。独りで四役
 を演じ分け、まさに非の打どころのない名演技であった。

 ワキ 工藤和哉 (66才) のいぶし銀の芸、囃子方は、些か大鼓の打音が強すぎたが
 まずまず、朋友 本田光洋率いる地謡陣が、厚味と張りのある響きでシテを支えた。
  (100分)  198/1243  

観能記 | 06:23:35 | コメント(0)
「喜多流職分会」
11月22日(日) 曇時々雨  喜多流職分会自主公演能  於:喜多能楽堂
                   開演 午前11時45分〜終演 午後4時45分
 喜多流職分会の 十一月の自主公演能で、能3番・狂言1番・仕舞3番の上演。見所は、
 ぎっしり満席である。

「通小町」
  シテ/深草少将の霊 粟谷幸雄  
   シテツレ/里女実は小野小町の霊 粟谷充雄   ワキ/僧 村瀬 純
   囃子方/笛 藤田朝太郎・小鼓 観世新九郎・大鼓 柿原崇志
   地謡/頭 粟谷能夫・副 粟谷明生 後見/主 友枝昭世・副 金子匡一

  典拠:「清輔奥義抄」「古事談」 能柄:四番目・男執心物
  所:京・八瀬〜市原野 作者:観阿弥 改作

 主人公は、百夜通いの深草少将であるが、小野小町も重要な役である。
 前場は、ツレの里女とワキの僧らとの 問答・掛合いが中心の展開。中入後の後場は、
 シテ深草少将の霊の登場で、前場の里女 実は小野小町の霊とのからみが、この曲の
 中心的主題となって進行する。

 百夜通いの様を見せ 妄念を示す少将、それから逃れようとする小町、人間の煩悩の
 愚かさをものがたる。演者の、劇性・写実的な所作と舞踊的所作が要求される難曲。
 人気曲のひとつで、公演回数も多い。12度目の鑑賞。

 シテ 粟谷幸雄 (77才) の超ベテラン乍ら、随所に瑞々しさを残す佳い舞台であった。
 惜しむらくは、子息 ツレの 粟谷充雄 (44才) の安定感に乏しい謡。上手く謡うとこ
 ろと、そうでないところとムラがある。若いと云っても既に四十代半ば、時は待って
 くれない。一層の修錬を望む。
  (60分)  195/1240

「遊行柳」
  シテ/前 老人・後 柳の精 塩津哲生
   ワキ/遊行上人 森 常好  ワキツレ/従僧 舘田善博・森 常太郎
   アイ/白河の里人 石田幸雄
   囃子方/笛 一噌幸弘・小鼓 曽和正博・大鼓 國川 純・太鼓 小寺佐七
   地謡/頭 香川靖嗣・副 大村 定 後見/主 内田安信・副 高林白牛口二

  典拠:「新古今和歌集」 能柄:三番目・老精物 所:陸奥・白河付近
  季節:秋・九月 作者:観世小次郎信光

 主人公は、老人実は朽木の精である。詞章の中に、柳にまつわる中国の故事、清水
 寺の創建由来、蹴鞠の御遊、「源氏物語」若菜のくだりが巧みに挿入され、美しく
 味わい深い謡が楽しめる。舞は「太鼓序之舞」で、老躰乍ら仄かな艶めきが感じ取
 れる舞が好ましい。名手、塩津哲生の技に注目。大小前に、引廻しを掛けた古塚の
 作り物を置く。当月本曲 3度目、通算12度目の鑑賞。

 11月4日 近藤乾之助 (宝生流・81才)、18日 岡 久広 (観世流・59才)、そして本日
 塩津哲生 (64才) の「遊行柳」の舞台。流儀や個性の違い、年齢や経験差も大きく
 違うが、地力・技量・力量ある役者の舞台は、見所を頗る観心地・聴心地・居心地
 の良いものにさせてくれる。

 乾之助には自然体の技を、久広には朽ち果てない精気を、今日の塩津には内に秘め
 た気を、感じさせてくれた。上演時間は、乾之助115分・久広100分・塩津115分
 という長丁場だが、いずれも長さを感じさせない充実した舞台であった。
 当方どちらかと云えば、今日の塩津の舞台が好きである。
  (115分)  196/1241

「雷 電」小書:替装束
  シテ/前 菅丞相の霊・後 雷神 佐藤章雄
   ワキ/法性坊 高井松男  ワキツレ/従僧 梅村昌功・野口能弘
   アイ/法性坊の能力 竹山悠樹
   囃子方/笛 内潟慶三・小鼓 幸 信吾・大鼓 亀井 実・太鼓 梶谷英樹
   地謡/頭 大島政允・副 佐々木宗生 後見/主 狩野秀鵬・副 佐々木宗生

  典拠:「太平記」 能柄:五番目・鬼物 所:近江・比叡山〜京・御所
  季節:秋・八月 作者:不明

 主人公は、太宰府に左遷されて憤死した 菅公 (菅原道真 ) である。菅公が雷神と
 なって、殿上人に報復しようとするが、恩師法性坊僧正の祈祷の法力に屈し虚空に
 消え去る。後場、一畳台が脇座辺と目付柱辺に置かれる。6度目の鑑賞。

 シテ 佐藤章雄 (61才) は、派手さのない堅実な役者である。曲趣から云って、スピ
 ードとキレのある動き、そして激しさが求められるが、少々物足りなかった。
  (50分)  197/1242 

観能記 | 13:45:54 | コメント(0)
「能楽兎者こと」
然る子細がありまして、Blogの Author名を「能楽兎者こと及部和良」といたしました。
加えて年内に、鑑賞能公演数通算 700、本年能鑑賞数 200・同 狂言 100、通算で 能
1,250・狂言 650と、区切りの数字が揃いそうだということも替える理由です。
気分を新たに、能・狂言の鑑賞と観能の感想文を書き続けていきたいと思いますので、
引続きよろしくお願い申し上げます。

雑亊記 | 08:01:26 | コメント(0)
「松能会」公演
11月20日(金) 晴  「松能会」公演  於:銕仙会能楽研修所
                      開演 午後5時30分〜終演 7時20分
 観世流の中堅処、松木千俊が主催する 第九回「松能会」で、能1番・仕舞2番の上演。
 「松能会」では、過去テーマを決めて演目を選んできたが、今年は「唐織五番能」と
 し、1回目は 脇能「賀茂」を舞い、今回 (2回目) は 修羅能「巴」の曲である。
 小振りな見所には、およそ100名ほどの観客。

「 巴 」
  シテ/前 里の女・後 巴御前の霊 松木千俊
   ワキ/旅僧 森 常好  ワキツレ/従僧 梅村昌功・則久英志
   アイ/粟津の里人 高澤祐介
   囃子方/笛 八反田智子・小鼓 森澤勇司・大鼓 安福建雄
   地謡/頭 馬野正基・副 武田友志 後見/主 武田志房・副 清水義也

  典拠:「平家物語」 能柄:二番目・女武者 所:近江・粟津の松原
  季節:春・一月 作者:不明

 主人公は、朝日将軍・木曾義仲の愛妾・巴御前である。戦場で自害した 義仲の最期
 や、形見の小袖・小太刀を持って木曽に逃れたいきさつを語る。修羅能で、女を主
 人公とする唯一の曲。3年振り 7度目の鑑賞。

 シテ 松木千俊 (47才) は、観世の同世代では 馬野正基 (44才/今日の地頭) と並び、
 高い技量と力量を持つ役者。

 前場、義仲への恋慕が募る可憐な女人姿は、紅入唐織着流しの出立ち、面は 小面か。
 シテ 松木の、立ち姿・下居姿が ことのほか美しく、ワキ 常好との流れるような問答
 も心地良い。

 後場は一転、唐織を壷折に着け 緋の袴、烏帽子を被った女武者姿、手に薙刀を持つ。
 中央床几に掛けて、義仲の最期や自らの奮戦ぶりを仕方話で物語る。多くの型や所作
 が、力強くキリッと決まって、松木の技量の高さを示す。

 馬野率いる若手の地謡陣が、6人構成ながら強く張りのある響きで、とてもよかった。
 囃子方の安定感ある奏演、八反田の笛がずいぶん上手くなった。高澤のアイ語りは、
 相変わらず巧い。全体に、緊張感が弛まない佳い舞台であった。
  (75分)  194/1239

観能記 | 17:45:29 | コメント(0)
「研究会」公演
11月18日(水) 曇  「研究会」公演  於:観世能楽堂
                      開演 午後5時30分〜終演 8時50分
 観世流の「研究会」公演で、能2番・狂言1番の上演。見所は、7分ほどの入りである。

「遊行柳」小書:青柳之舞
  シテ/前 老翁・後 老柳の精 岡 久広
   ワキ/遊行上人 森 常好  ワキツレ/従僧 則久英志・御厨誠吾
   アイ/里人 山本則重
   囃子方/笛 松田弘之・小鼓 曽和正博・大鼓 柿原崇志・太鼓 小寺佐七
   地謡/頭 武田宗和・副 観世芳伸 後見/主 観世清和・副 武田尚浩

  典拠:「新古今和歌集」 能柄:三番目・老精物 所:陸奥・白河付近
  季節:秋・九月 作者:観世小次郎信光

 主人公は、烏帽子狩衣・白髪の老人姿で現れた、朽木の柳の精である。
 クリ・サシ・クセの詞章の中に、柳にまつわる中国の故事、京都清水寺の創建由来、
 殿上人の蹴鞠の御遊、「源氏物語」若菜 のくだり 等々が、たくみに挿入されて味わ
 い深い謡となっている。

 また、報謝の舞「太鼓序之舞」は、老体故弱々としながらも、晴れやかに舞う力量
 が求められる。本曲は優雅にして閑寂、さびさびとした風情の中に、仄かな艶めき
 を残す魅力的な能である。シテ役者は、経験豊富で高い芸力の持ち主でないと舞え
 ない。大小前に、引廻しの掛った古塚の作り物 (上に朽木の柳) を置く。

 明日 (11月19日) 還暦60才を迎えるシテ 岡 久広が、じっくりと演じて中身の濃い
 良い舞台であった。
 11月4日に、国立定例公演で宝生流の 近藤乾之助 (81才) が、「遊行柳」を小書:
 朽木留で舞ったが、役を演じるというよりは、自然体そのままの動きが印象的で
 あった。比べて 岡の舞台では、枯れきってない朽木の精が、未だ朽ち果てるわけに
 はいかないという、気概と精気を感じた。

 どちらが良い悪いと云うのではなく、能「遊行柳」として、双方ともに評価の高い
 舞台であると云える。また22日には、喜多流の 塩津哲生 (64才) の「遊行柳」を
 鑑賞の予定で、これがまた楽しみである。
  (100分)  192/1237

「葵 上」小書:梓之出
   シテ/六条御息所の生霊・後に鬼女 山階弥右衛門
    シテツレ/照日神子 武田宗典
    ワキ/横川小聖 村瀬 純  ワキツレ/朝臣 村瀬 慧
    アイ/左大臣家の男 遠藤博義
    囃子方/笛 一噌隆之・小鼓 幸 清次郎・大鼓 安福光雄・太鼓 梶谷英樹
    地謡/頭 関根知孝・副 井上裕久 後見/主 関根祥六・副 津田和忠

   典拠:「源氏物語」 能柄:四番目・鬼女物 所:京・左大臣邸 
   作者:世阿弥 改作

 主人公は、嫉妬に狂い受けた屈辱を晴らそうと、生霊となって現れた六条御息所で
 ある。正先に、病に臥せる葵上を象徴する小袖を置く。現行曲中、一二を競う人気
 曲で 25度目の鑑賞。

 シテ 山階弥右衛門 (48才) は、観世清和宗家の実弟であるが、近時 宗家の力量が
 急上昇しているのに、弥右衛門のそれはずいぶん見劣りがする。
 しかし、今日の舞台は 前半はともかく、幕へ消えて鬼相に変身してからの舞台は、
 実に痛快で面白かった。

 大音声の謡で活気付くと、メリハリのある動きや型で、緋の長袴が自在に舞台・橋
 掛りを駆けめぐる。後半は、あっという間に終曲で、主役は怨霊ながら、晴々とし
 て清々しい空気が見所に流れた。
  (50分)  193/1238

観能記 | 21:59:29 | コメント(0)
「五雲会」公演
11月14日(土) 雨  「五雲会」公演  於:宝生能楽堂
                      開演 午後12時〜終演 5時25分
 宝生流の十一月「五雲会」公演で、能4番・狂言2番の上演。見所は、6分ほどの入り
 で少々寂しい。

「生田敦盛」
  シテ/平敦盛の霊 野月 聡   子方/敦盛の遺児 波吉敏信
   ワキ/法然上人の従者 安田 登
   囃子方/笛 栗林祐輔・小鼓 森 貴史・大鼓 大倉栄太郎
   地謡/頭 武田孝史・副 今井泰行 後見/主 當山孝道・副 藤井雅之

  能柄:二番目・修羅物 所:摂津・生田 季節:夏・七月 作者:金春禅鳳

 主人公は、平家の公達 平敦盛である。法然上人に養育された 敦盛の遺児が、霊夢を
 得て生田の森で、亡き父の霊と対面を果たす。
 上演時間40分ほどの小曲で、金春流は「生田」と記す。あまり上演されない曲で、
 2度目の鑑賞。大小前に、藁屋の作り物を出す。

 シテ 野月 聡 (39才) は、宝生期待の若手のひとり。よく響く謡で、甲冑の立ち姿も
 凛々しい。万事丁寧だが、もう少し芝居気があってもよい。
  (40分)  188/1233

「蝉 丸」
  シテ/逆髪 水上輝和   シテツレ/蝉丸 小倉伸二郎
   ワキ/清貫 工藤和哉 ワキツレ/輿舁 殿田謙吉・大日方 寛
   アイ/博雅三位 野村万蔵
   囃子方/笛 寺井宏明・小鼓 幸 信吾・大鼓 柿原弘和
   地謡/頭 小林与志郎・副 田崎隆三 後見/主 近藤乾之助・副 渡邊筍之助

  典拠:「今昔物語集」「平家物語」 能柄:四番目・狂女物 所:近江・逢坂山
  季節:秋・八月 作者:世阿弥

 主人公は、醍醐天皇の第三皇女 逆髪と第四皇子 蝉丸で、シテとツレが同格の両ジテ
 物である。盲目の 蝉丸は逢坂山に捨てられ、髪が逆立つ奇病の 逆髪は心乱れて放浪。
 二人は、逢坂山で再会を果たすが、やがて涙の別れとなる。脇座に、萩藁屋の作り物
 を置く。人気曲で上演回数も多い。9度目の鑑賞。

 シテ 水上輝和 (66才) はベテラン、ツレの 小倉伸二郎 (35才) は 宝生期待の若手の
 ひとり。水上は、相応の味を出したが いまひとつ情感に乏しい。その点、若い小倉
 の方が、曲趣に沿った感情移入が際立つ演技を見せた。
  (90分)  189/1234

「忠 信」
  シテ/佐藤忠信 辰巳大二郎   シテツレ/源義経 高橋憲正
   トモ/義経の従者 金野泰太 /立衆 佐野弘宜 他  ワキ/伊勢三郎 大日方 寛
   囃子方/笛 関川順一郎・小鼓 森澤勇司・大鼓 佃 良太郎
   地謡/頭 前田晴啓・副 中村孝太郎 後見/主 宝生和英・副 小倉健太郎

  能柄:四番目・斬合物 所:大和・吉野 季節:冬・十一月 作者:不明

 主人公は、義経の家臣 佐藤忠信である。頼朝に追われた義経が、衆徒を頼って吉野
 に逃れる。だが、衆徒の変心で、忠信に「防ぎ矢」を命じて山を落ちのびる。単純
 な斬組物の小曲で、シテは直面で演じる。4度目の鑑賞。

 シテ 辰巳大二郎 (30才?) の、キビキビした動きがよかった。戦闘場面の斬られ役
 (立衆) の、仏倒れや安座の型は あまり迫力なかった。
  (25分)  190/1235

「 融 」
  シテ/前 潮汲みの老人・後 源融の亡霊 山内崇生
   ワキ/旅僧 殿田謙吉  アイ/六条辺の者 小笠原 匡
   囃子方/笛 小野寺竜一・小鼓 住駒充彦・大鼓 内田輝幸・太鼓 麦谷暁夫
   地謡/頭 高橋 章・副 亀井保雄 後見/主 宝生和英・副 佐野由於

  典拠:「伊勢物語」「今昔物語集」 能柄:五番目・貴人物 
  所:京・六条河原院 季節:秋・八月 作者:世阿弥

 主人公は、嵯峨天皇の第十二皇子で、風雅な歌人 源融である。潮汲みの老人姿で現
 れた 融の霊が、旅僧に 融の大臣のことを詳しく語り、月下の名所教えや担桶で潮
 汲みの様を見せて姿を消す。僧の夢の中に貴公子姿の 融の亡霊が現れ、月光を浴び
 て「早舞」を舞うが、やがて夜明けとともに消えて行く。世阿弥の代表作で、上演
 回数も極めて多い。15度目の鑑賞。

 シテ 山内崇生 (42才) は、宝生期待の若手の中でも一段と優れた存在。果たして、
 今日も終始優雅な雰囲気を漂わせて丁寧に演じ、実に見事な舞台を見せてくれた。
 ワキ 殿田謙吉 (50才) がきっちり支え、小笠原 匡 (44才) が巧いアイ語りでつなぎ、
 高橋 章 (75才) 率いる地謡陣が、これぞ「宝生の謡」を聞かせてくれて、頗る心地
 良かった。
  (85分)  191/1236

観能記 | 14:40:36 | コメント(0)
「銕仙会定期」
11月13日(金) 雨  銕仙会定期公演  於:宝生能楽堂
                      開演 午後6時〜終演 9時10分
 銕仙会11月の定期公演で、能2番・狂言1番の上演。観世流宗家 観世清和の、銕仙会
 への客演舞台 (年1回) 。見所は、8分ほどの入りである。

「浮 舟」小書:彩色
  シテ/前 里女・後 浮舟の霊 観世清和
   ワキ/旅僧 殿田謙吉  アイ/里人 小笠原 匡
   囃子方/笛 一噌隆之・小鼓 林 光寿・大鼓 柿原崇志
   地謡/頭 観世銕之丞・副 山本順之 後見/主 浅見真州・副 谷本健吾

  典拠:「源氏物語」 能柄:四番目・執心女物 所:山城・宇治小野
  作者:横尾元久作詞・世阿弥作曲

 主人公は、ライバル同士の二人 (薫中将と匂宮) に翻弄される 浮舟である。
 「源氏物語」宇治十帖による能で、素人が作り 世阿弥が節付したという。作り物の
 舟を、常座辺に置く。

 前場、前シテ (里女) 観世清和の強く張りのある謡と、ワキ (旅僧) 殿田謙吉のどっし
 りとした謡の問答が続く。地頭 観世銕之丞がリードする地謡は、重量感はあるが些
 かリズム感に乏しい。

 中入で、アイ (里人) の小笠原 匡が、浮舟の物語を詳しく語る。明快な語り口がよい。
 後場、ワキの待謡で後シテ (浮舟の霊) が現れ、心の苦悩と身投げする心情を謡う。
 清和の、憂いのある強い謡が印象的だ。

 次いで、物の怪に取り憑かれてカケリ舞から、助けられた横川僧都に謝し 再び僧に
 回向を頼むと、やがて夜明けとともに消え失せる。
 全体に、「源氏物語」らしい優艶な趣も感じられて、落着いてしっかりとした舞台に
 満足した。
  (90分)  186/1231

「昭 君」小書:働入
  シテ/尉 (白桃) 浅井文義  シテツレ/姥 (王母) 浅見慈一
   シテツレ/呼韓邪単干の霊 柴田 稔  シテツレ/昭君の霊 鵜澤 光
   ワキ/里人 村瀬 提 
   囃子方/笛 槻宅 聡・小鼓 鵜澤洋太郎・大鼓 亀井広忠・太鼓 小寺佐七
   地歌/頭 野村四郎・副 若松健史 後見/主 永島忠侈・副 清水寛二
  典拠:「後漢書」「今昔物語」「和漢朗詠集」 能柄:五番目物
  所:中国・公浦里 季節:春・三月 作者:不明

 主人公は、昭君の老父・白桃であるが、後場現れる故国の王・呼韓邪単干も主役で
 ある。舞台には、柳の立木台と大鏡台の作り物を置く。

 前段は、シテ (尉)・ツレ (姥)姿の老夫婦が、愛娘 昭君のことを縷々語る静かな展開。
 中入とアイ語りがなく、後段は、ツレ (昭君の霊) とツレ (単干の霊)が現れ、働が
 入って動きの激しい展開となる。

 浅井文義・浅見慈一・鵜澤 光・柴田 稔が、それぞれ持ち味出して好演した。中でも、
 厳つい「黒べし見」の面を掛けた 柴田 (単干の霊) が、切れ味するどく思いきりの良
 い動きが特別目立った。シテ・ツレ・三役・地謡に一体感があり、なかなか面白い舞
 台であった。
   (65分)  187/1232

観能記 | 20:57:31 | コメント(0)
「紅葉狩」
11月7日(土)〜9日(月) 2泊3日で、山形県の羽黒山から 新潟県の妙高まで足をのばし、
少々遅かったが「紅葉狩」の旅を楽しんできた。
鉄道やバスを乗継ぎ、夫婦で行く気楽な旅である。紅葉は、場所によっては時期を過ぎ
葉も落ちていたが、モミジやイチョウは今が真っ盛り、というところが多々あって、
それに、3日間好天にも恵まれ大いに楽しめた。

古川〜新庄 (陸羽東線) 、車中から見た鳴子峡は少々盛りを過ぎていたが、周囲の山々
の斑模様が美しかった。新庄〜余目 (陸羽西線)・余目〜鶴岡 (羽越本線) と乗継いで、
山岳信仰・出羽三山の一つ羽黒山へ。立派な、羽黒山五重塔 (国宝)・杉並木 (天然記念
物) などを見て、羽黒山で宿をとった。

鶴岡〜新潟 (羽越本線)・新潟〜直江津 (信越本線) で妙高高原へ。紅葉の名所・笹ケ峰
散策、若干時期を過ぎていたが、その美しさは十分目を楽しませてくれた。妙高で宿を
とる。

最終日は、妙高市観光協会の「バスで行く戦国浪漫」に参加、春日山神社・林泉寺・
居多神社などを見学した。上杉謙信の、雄大な春日山城と林泉寺の紅葉が、実に見事で
美しかった。

小旅行 | 21:55:43 | コメント(0)
「国立定例公演」
11月4日(水) 晴  国立定例公演  於:国立能楽堂
                    開演 午後1時〜終演 3時45分
 国立能楽堂11月の定例公演で、能1番・狂言1番の上演。見所は、脇正面後方に空席が
 目立つが、新型インフルエンザで、団体客 (学生) のキャンセルがあったという。

 演者の方も、能「遊行柳」では シテ 佐野 萌師の急逝 (9月28日・享年81才) で、同流
 儀(宝生流) の 近藤乾之助 (81才) に変わり、後見の 寺井良雄が 武田孝史に変わった。
 狂言「泣尼」では、シテ 茂山忠三郎 (大蔵流・81才) が 山本東次郎 (72才) に変更と
 なった。

「遊行柳」小書:朽木留
  シテ/前 老翁・後 老柳の精 近藤乾之助
   ワキ/遊行上人 宝生 閑  ワキツレ/従僧 宝生欣哉・大日方 寛
   アイ/里人 古川道郎
   囃子方/笛 杉 市和・小鼓 幸 清次郎・大鼓 柿原崇志・太鼓 前川光長
   地謡/頭 三川淳雄・副 小倉敏克 後見/主 宝生和英・副 武田孝史

  典拠:「新古今和歌集」 能柄:三番目・老精物 所:陸奥・白河付近
  季節:秋・九月 作者:観世小次郎信光

 主人公は、老木の朽木柳の精である。
 世阿弥の「西行桜」の幽玄味に挑戦して、信光が作り上げた夢幻能「遊行柳」である
 とか。通常女性が舞うことの多い「序之舞」を、老人に舞わせるところが一風変わっ
 ている。それも、「太鼓序之舞」で。

 シテ役者は、経験豊富で技量・力量に優れた者でないと舞えない難曲。大小前に、引
 廻しを掛けた 柳の古塚の作り物を置く。

 前場、乾之助が低く抑えた声で幕内から呼びかけ、やがて老体姿が現れると、舞台に
 もの寂しい雰囲気が漂う。次いで、場の展開を十分心得た 閑との問答となる。この
 やりとりが 何とも心地良い。

 後場、烏帽子・狩衣姿の柳の精は、クセ舞から報謝の舞「太鼓序之舞」へと舞い進む。
 乾之助は、役を演じるというよりは、自然体そのままの動き。だが、足腰の衰えは
 隠しようもなく、2時間近い長丁場の舞台は、体力の限界といった感じだ。

 亡き僚友に変わって、亡き僚友のために、気力でつとめた舞台といってよい。
  (115分)  185/1230

観能記 | 21:38:49 | コメント(0)
「文化財記念能」
11月3日(祝) 晴  文化財登録記念能  於:代々木能舞台
                      開演 午後5時30分〜終演 7時20分
 「代々木能舞台」の文化財登録記念能で、能1番・独吟1番・仕舞2番の上演。
 見所のお座敷には、座布団が敷き詰められて満員の状態。

 配布されたパンフレットには、「代々木能舞台とは、昭和八年に建築され、戦争にも焼
 け残った母屋の敷舞台と、戦後の東京で最初に作られた、屋外の本舞台によって構成さ
 れており、今年、国の登録文化財となりました」と記されてある。

 今日は、この風情ある能舞台を生かし、演能の照明に変化をつけようという演出だ。
 本舞台・橋掛りの周辺と、青天井になっている中庭 (脇正面の位置だが客席はない) に、
 青竹を輪切りにした大小の竹筒を60本以上立て、その中にローソクを灯して、光りの
 ゆらぎ、明・暗を味わおうという粋な演出である。

「清 経」
  シテ/平清経の霊 浅見慈一 (観世流)  シテツレ/清経の妻 鵜澤 光
   ワキ/淡津三郎 大日方 寛 
   囃子方/笛 八反田智子・小鼓 田邊恭資・大鼓 亀井広忠
   地謡/頭 浅井文義・副 小早川 修 後見/主 浅見真州・副 伊藤嘉章

  典拠:「源平盛衰記」「平家物語」 能柄:二番目・修羅物 所:京・清経邸
  季節:秋・九月 作者:世阿弥

 主人公は、平家一門の若き公達 平清経で、豊前柳が浦の沖に身を投げ自ら命を絶った。
 残された妻の夢枕に現れた 清経は、合戦の様子や入水したいきさつを語る。現世と幽
 界が交差する狭間で、夫婦の情愛と戦いの虚しさを、詩情豊かに描いた名曲である。
 上演回数多く、25度目の鑑賞。

 シテの 浅見慈一 (44才) は、代々木能舞台・代々木果迢会の当主・浅見真高 (84才)
 の長男で、小柄だが謡や舞がしっかりしており、近時着実に地力をつけてきた。
 今日の舞台も良い味出して、なかなかの好演であった。

 ツレの若手女流も頑張ったが、少々謡が細く弱かった。囃子方は、大鼓が笛・小鼓を
 強くリードした。6人構成の地謡は、やはり強さと量感に乏しかった。もっとも、本
 能舞台の構造上、音が拡散してしまうきらいがあるが。

 今日の光りの演出は、確かに曲趣の雰囲気を醸し出す効果はあった。
 しかし、視覚的 (アートとしての感覚を含め) には、一部の箇所 (橋掛り・中庭辺) に
 限定されていたように思う。

 ローソクの赤みがかった光りのゆらぎと、本舞台天井の白い電灯の光りが、シテ柱の
 辺で交わるのだが、本舞台上は常の照明と同じ明るさ (若干暗い程度) に感じた。
 本舞台の白い電灯を、いっそ赤みがかったセロハンで覆ったらどうかなと思った。

 それにしても、天空に月がかがやき、気温がぐっと下がったこの夜、冷気をさえぎる
 もののない見所は、しこたま寒かった。
  (65分)  184/1229

観能記 | 11:54:25 | コメント(0)
「海の会」公演
11月3日(祝) 晴  「海の会」公演  於:セルリアンタワー能楽堂
                     開演 午前11時〜終演 午後12時45分
 観世流・昭門会の、勝海 登が主宰する 第十八回「海の会」公演で、能1番・狂言1番の
 上演。小振りな見所は、ほぼ満席である。

「田 村」小書:替装束
  シテ/前 童子・後 坂上田村丸の霊 勝海 登 (観世流)
   ワキ/旅僧 殿田謙吉 ワキツレ/従僧 則久英志・梅村昌功
   アイ/清水寺門前の者 三宅近成
   囃子方/笛 一噌幸弘・小鼓 大倉源次郎・大鼓 亀井広忠
   地謡/頭 小川明宏・副 小川博久 後見/主 観世恭秀・副 清水義也

  典拠:「清水寺縁起」 能柄:二番目・修羅物 所:京・清水寺 季節:春・三月
  作者:不明

 主人公は、時の天皇に戦の才能を認められ、征夷大将軍となった 坂上田村丸 (麻呂)。
 勅命の鈴鹿山鬼神退治出兵の際、千手観音が具現して鬼神を殲滅せしめた。而して、
 観世音の御蔭を謝し清水寺を創建する。

 修羅の祝言曲で、「箙」・「屋島」と本曲を「三勝修羅」という。
 小書:替装束により、前シテの面が「童子」から「小喝食」に変わり、後シテは 黒頭
 に唐冠・剣を背負い・手に唐扇、面は「天神」を掛け、装束は狩衣の肩上げにする。

 昭門会の中堅 勝海 登 (59才) が、前場は優雅な風情で、後場は勇壮さを際立たせて、
 実にしっかりとメリハリをつけた演技で好演した。
 彼のシテ舞台を初めて観るが、力量・技量ともに優れたものを持つ。三番鬘物に、ど
 のような味を出すか、今後の彼の舞台を注目してみたい。
  (75分)  183/1228

観能記 | 09:28:04 | コメント(0)
「観能の感想」
 当方が能楽堂へ足を運び、その都度感想文を書いているのは、事実の記録のためで
 ある。記憶は消えるが、記録は長く残る。あの年あの日のあの人の舞台は、こう
 だったのかと、後年振り返って思いを馳せることが出来る。
 全流儀は勿論、ベテラン・中堅・若手を問わず、極力万遍なく観ることを心掛けて
 いる。それには、その時その役者の実年齢の記述は欠かせない。

 観能の感想は、舞台を観た人の多様な感性や視点の中から、個々人の主観で述べる
 ものであり、いろいろな見方・考え方が出てくるのは、ごく自然なことである。
 ある感想・判断を、言語または文字で伝える場合、当然真実とは乖離する。
 しかし、真実とは一体何なんだと考えたとき、神ならぬ人智の限界があるのは当然
 で、本職の能楽評論家の能評が、真実若しくはそれに近いとは言い切れない。


 昨日は、現代能面打の第一人者 高津紘一師と 岩崎久人師 、新進気鋭の 新井達矢師
 (初対面) らと賑やかに昼食をとり、銀座で開かれている 伊藤通彦師主宰の 第15回
 赤泥舎 能狂言面展を鑑賞した。
 5日からは、岩崎久人師主宰の 第29回 横浜能面展が、横浜馬車道アートギャラリー
 で始まる。初日に鑑賞に行くつもりである。

雑亊記 | 09:22:22 | コメント(0)
「能楽初観賞」
昨日 (11月2日)、能・狂言を一度も観賞したことのない方達に、昼食をとりながら
「能楽」に関する説明役をつとめた。
メンバーは元の職場の役員クラスで、日本の伝統芸能を観るチャンスに恵まれなかった
方達、というよりは、積極的に能楽に関心を示さなかった人達である。
12月2日(水) の国立定例公演、能「善界」(梅若玄祥)・狂言「石神」(大蔵弥太郎) の観
賞を前提に、能・狂言の歴史、仕組み、能面・能装束、流儀、能役者、あらすじ などの
レジュメを作り、謡本ほかの資料を見せながら話しをした。
また、この日のために、面打師 岩崎久人師から、師の打たれた能面を拝借した。
「翁」「中将」「小面」「十寸髪」「しかみ」の五点で、名品を間近に見ることが出来
て皆大感激であった。
12月2日の公演終了後、このメンバーが再び集って「反省会」が開かれる。どんな感想
が飛出すか、楽しみである。
 
 

雑亊記 | 09:41:55 | コメント(0)
「昭世の江口」
昨日 (11月1日) 国立能楽堂で開催された「友枝会」では、能2番 (「江口」・「黒塚」)・
狂言1番が上演された。当方所用があって観賞出来なかったが、能友が ひと言感想を伝え
てきたので紹介する。

 「江口」の感想です。
 観世宗家 (註:観世清和・観世流・50才) の「江口」が完璧だとすれば、友枝昭世
  (註:喜多流・69才) の「江口」は、菩薩の暖かさがある舞台でした。

 後シテの「序之舞」のあと … 、地謡「花よ紅葉よ月雪の古事も、あら由なや」で、
 シテ「思へば假の宿」のところ、ワキに振り向き見つめあう場面がありました。
 西の空に帰る前に、現世と向き合っているようで、素敵に思った瞬間でした。

 上演時間 110分の予定が 120分、たっぷり堪能しました。
                              11月1日 S . S

雑亊記 | 07:29:48 | コメント(0)
「祥六の定家」
昨日(10月31日)、国立能楽堂の特別公演で、 能2番(「松尾」・「定家」)・狂言1番が
上演された。当方所用があって観賞出来なかったが、能友から早速感想文が送られてき
たので紹介する。

 「定家」が素晴らしかったです。
 前場の、時雨降る荒涼とした風景が心にしみじみと響いて、思わず涙を誘われました。
 それにしても、祥六 (註:関根祥六・観世流・79才) の、身体的には少し衰えている
 のでしょうが、その声のよく通ること。しかも枯れ枯れとした声までも、鏡の間から 
 の声さえハッキリと聞こえました。

 中入前、「石に残す形だに」で シテが後退、作り物の引き回しに背中を押しつけ … 、
 というのは観世流の演出とか。
 引き回しの中での装束替が、少し手間取ったというか、少しバタバタと音がして、
 大丈夫かなと心配してしまいました。が、後場「夢とかよ闇の … 」で陰鬱な謡が
 聞こえて、心配したことが嘘のようでした。

 そして、「序之舞」の何と形容すればよいのか … 、もどかしい思いですが、仙幸
 (註:一噌仙幸・69才) の笛の冴え冴えとして、また 祥六の、意識などを超越した
 神々しいまでの、身体的な衰えさえも味方につけてしまったとも云える舞姿に、涙
 してしまいました。

 ワキの 福王茂十郎 (註:福王流・66才) の声が、むしろあまり個性的ではなく、
 強すぎず弱すぎずで、祥六を際立たせる感じで なかなか良かったです。
 地謡も、まとまりがあって良かったです。
 実は「定家」は、これが初めての観賞でしたが、2時間超という長さを全く感じさ
 せない、心がぐっと引き込まれるものでした。
 
 後シテの面が、「痩女」ではなく「霊女」ということでしたが、出口で聞いても
 それ以上の詳しいことは分からないと云われました。
 なぜか、フッと岩崎さん (註:岩崎久人能面師) の面の感じを思い浮かべてしまい
 ましたが、多分それほど古くはないものではないかと思いました。
 品のある良い面で、祥六が それを素晴らしく掛けてくれていました。

 今夜は久し振りに、いっぱいの想いと感動を抱えて帰路につきました。
                            10月31日 M . A

雑亊記 | 07:07:37 | コメント(0)
「叔母のこと」
「一病息災」は、一つくらい病気をもつ人が、無病で健康を自負する人よりも、健康
に留意するので長生きするという意味だが、叔母の急逝は(まさに逆の意味で)その
言葉通りになってしまった。病気ひとつしない人が、僅か一週間の入院で あっという
間に逝ってしまったのだ。享年79、長寿時代に如何にも早い。世話好きで明るい性格、
誰からも慕われた。
今日お通夜、明日葬儀・告別式。叔母が好きな「お陽様」、良い天気が続きそうだ。

31日の「定 家」(関根祥六)、1日の「江 口」(友枝昭世) は、これから未だ観る機会は
ある。


雑亊記 | 10:11:32 | コメント(0)
「11月の予定」
主な能楽観賞
  04(水) 国立定例公演・国立能楽堂
       「遊行柳」(近藤乾之助)
  13(金) 銕仙会定期公演・宝生能楽堂
       「浮 舟」(観世清和)・「昭 君」(浅井文義)
  14(土) 五雲会・宝生能楽堂
       「生田敦盛」(野月 聡)・「蝉 丸」(水上輝和)・「忠 信」(辰巳大二郎)・
       「 融 」(山内崇生)
  18(水) 研究会・観世能楽堂
       「遊行柳」(岡 久広)・「葵 上」(山階弥右衛門)
  20(金) 松能会・銕仙会能楽研修所
       「 巴 」(松木千俊)
  22(日) 喜多流職分会自主公演・喜多能楽堂
       「通小町」(粟谷幸雄)・「遊行柳」(塩津哲生)・「雷 電」(佐藤章雄)
  23(祝) 横浜企画公演・横浜能楽堂
       「八 島」(櫻間金記)
  26(木) 国立企画公演・国立能楽堂
       「松 風」(塩津哲生)
  29(日) 花影会・観世能楽堂
       「井 筒」(武田友志)・「鉢 木」(武田志房)
受 講
  「名作能への誘い」(川名 宏)・「能に親しむ会」(堀上 謙)
国内旅行
  羽黒山〜妙高高原の旅

雑亊記 | 19:58:21 | コメント(0)
「ユネスコ記念能」
10月28日(木) 晴  ユネスコ記念能  於:国立能楽堂
                     開演 午後6時30分〜終演 8時10分
 能楽協会が主催する、第七回「ユネスコ記念能」公演で、能1番・狂言1番の上演。
 シテ・三役に、多数若手を配役している。見所は、外国人が多く ほぼ満席である。

「黒 塚」
  シテ/前 安達原の女・後 鬼女 今井克紀 (金剛流)
   ワキ/阿闍梨祐慶 宝生欣哉 ワキツレ/同行の山伏 大日方 寛
   アイ/能力 三宅右矩
   囃子方/笛 寺井宏明・小鼓 幸 正昭・大鼓 安福光雄・太鼓 金春国和
   地謡/頭 今井清隆・副 豊嶋晃嗣 後見/主 松野恭憲・副 宇高竜成

  典拠:「捨遺集」「古今集」「伊勢物語」 能柄:五番目・鬼女物
  所:陸奥・安達原 季節:秋・八月 作者:一説に 金春禅竹

 主人公は、安達が原に住む貧女 実は人喰い鬼女である。前場は 女が糸繰りの様子や、
 糸尽くしの歌を謡う静かな展開、中入では アイ能力の滑稽な動き、後場は 鬼女と山
 伏との壮絶な闘いという展開。場面変化が激しい二場物の劇能で、巧演者を得れば
 まことに面白い舞台となる。大小前に、引廻しの掛った作り物の萩小屋を置く。
 観世流は「安達原」と記す。人気曲で上演回数も多い。11度目の観賞。

 シテは、京都から金剛流の若きホープ 今井克紀 (38才) の起用である。彼のシテ舞台
 は、「道成寺」を入れて今まで 4度観ているが、何れも好舞台であった。しかし、
 今日の舞台は とても褒められたものではなかった。体調でも崩したのか、謡に芯の
 強さがなく一本調子、型や所作にも切れ味が見られない。しかも面使いが荒く、必要
 以上に動かすから品性に欠ける。芝居心が感じられない舞台では、この曲の面白味は
 見所に届かない。

 三役では、ワキは常の力を出したが アイは芸が未熟、囃子方は一体感のない奏演で
 聞き心地悪かった。地謡は、量感はあるが面白味のない謡で、若いシテを支える力と
 はならなかった。
  (70分)  182/1227

観能記 | 18:25:00 | コメント(0)
「喜多流職分会」
10月25日(日) 雨  喜多流職分会自主公演能  於:喜多能楽堂
                        開演 午後12時〜終演 5時15分
 喜多流職分会の 十月自主公演能で、能3番・狂言1番・仕舞1番の上演。
  見所は 満席である。

「清 経」
  シテ/平清経の霊 高林呻二
   シテツレ/清経の妻 井上真也  ワキ/粟津三郎 宝生欣哉
   囃子方/笛 小野寺竜一・小鼓 森 貴史・大鼓 大倉栄太郎
   地謡/頭 友枝昭世・副 出雲康雅 後見/主 粟谷幸雄・副 高林白牛口二

  典拠:「源平物語」「平家物語」 能柄:二番目・修羅物 所:京・清経邸
  季節:秋・九月 作者:不明

 主人公は、平家一門の敗将 平清経で、豊前国柳が浦の沖に身を投げ自ら命を絶った。
 残された妻の夢枕に現れた 清経は、合戦の様子や入水したいきさつを語り舞う。
 夫婦の情愛と戦争の虚しさを、詩情豊かに描いた名作である。上演回数も極めて多く、
 24度目の観賞。

 シテ 高林呻二 (45才)と ツレ 井上真也 (39才) は喜多流の若手、と云っても可成り
 の実績を積んだ能楽師だ。相応に期待したが、不発に終わった舞台であった。
 両者とも、残念ながら力量不足と云わざるを得ず、謡・語・型・所作などに、情緒
 や味わいが感じ取れなかった。
  (65分)  179/1224

「三井寺」
  シテ/前 千満の母・後 千満の母 (狂女) 香川靖嗣   子方/千満 金子龍晟 
   ワキ/園城寺 (三井寺) の住職 宝生 閑 ワキツレ/従僧 梅村昌功・御厨誠吾
   アイ/清水寺門前の者 三宅右矩 /三井寺の能力 三宅近成
   囃子方/笛 松田弘之・小鼓 森澤勇司・大鼓 柿原崇志
   地謡/頭 塩津哲生・副 大島政允 後見/主 長田 驍・副 塩津圭介

  能柄:四番目・狂女物 所:京・清水寺〜近江・三井寺 季節:秋・八月
  作者:不明

 主人公は、人商人に子供をさらわれた母親である。母は、我が子 千満の行方を求め
 て、清水の観音に参籠する。ある夜、霊夢を蒙り三井寺へ向う。寺では、稚児を伴
 い僧達が月見の最中。そこへ、物狂いとなった母親が辿り着く。鐘楼に近づき咎め
 られると、故事・古歌などを引き、月に興じて鐘を撞く〈鐘ノ段〉。 やがて、
 母子は喜びの再会を得て郷里に帰って行く。

 春の「隅田川」・秋の「三井寺」と称される狂女物の大曲で、力量ある演者でない
 と舞台は勤まらない。中入後、ミニチュア化された鐘楼の作り物を、目付柱辺に置
 く。7度目の観賞。

 シテ 香川靖嗣 (65才) は、技量・力量に優れた実力派能楽師である。
 香川の安定した演技は、観る方にとって頗る居心地がよい。美声ではないが、落着
 いた謡に品の良さを感じる。型や所作の一つ一つが曲趣に合って、能らしいリアル
 感を出している。掛けた面が、ふっくらとして色気あり (「白曲見」岩崎久人)。
 三役や地謡陣とも調和がとれて、実に見応えのある佳い舞台であった。
  (100分)  180/1225

「 融 」
  シテ/前 老翁・後 源融の霊 佐々木宗生
   ワキ/旅僧 大日方 寛 アイ/所の者 高澤祐介
   囃子方/笛 槻宅 聡・小鼓 亀井俊一・大鼓 安福光雄・太鼓 助川 治
   地謡/頭 粟谷能夫・副 粟谷明生 後見/主 内田安信・副 金子匡一
 
  典拠:「伊勢物語」「今昔物語集」 能柄:五番目・貴人物 
  所:京・六条河原院 季節:秋・八月 作者:世阿弥

 主人公は、風雅をこよなく愛した歌人 源融である。汐汲みの老翁姿で現れた 融の霊
 が、旅僧に 融の大臣のことを詳しく語り、月下の名所を教え、担桶で汐を汲む様を
 見せて姿を消す。僧の夢の中に、貴公子姿の 融の亡霊が現れ、月光を浴びて舞を舞う
 が、やがて夜明けとともに消えて行く。世阿弥の代表作と云われ、上演回数も多い。
 14度目の観賞。

 シテ 佐々木宗生 (69才) は、流儀のベテラン能楽師であるが、当方あまりシテ舞台
 を観てない。謡は、なかなか味わいがあり巧いなと思ったが、型や所作を見て少な
 からず足腰の衰えを感じた。果たして、見どころの「早舞」の動きが緩慢で、折角
 昂揚感のある詞章や囃子に そぐわなかった。
  (85分)  181/1226 

観能記 | 14:44:41 | コメント(0)
「長島 茂の会」
10月24日(土) 曇後雨  長島 茂の会  於:喜多能楽堂
                      開演 午後2時〜終演 4時45分
 第十二回「長島 茂の会」公演で、能1番・狂言1番・仕舞1番の上演。見所は、6分ほど
 の入りで少々寂しい。

「柏 崎」
  シテ/前 柏崎某の妻 (花若の母)・後 花若の母 (狂女) 長島 茂 (喜多流)
   ワキ/家人 小太郎 森 常好 ワキツレ/善光寺の住職 森 常太郎
   アイ/能力 高野和憲
   囃子方/笛 一噌仙幸・小鼓 大倉源次郎・大鼓 國川 純
   地謡/頭 粟谷能夫・副 出雲康雅 後見/主 友枝昭世・副 内田安信

  能柄:四番目・狂女物 所:越後・柏崎〜信濃・善光寺 季節:秋・十月
  作者:原作 榎並左衛門五郎・改作 世阿弥

 主人公は、鎌倉で訴訟中病死した 柏崎某の妻で、一子 花若の母である。
 同じく鎌倉に在った 花若も、母への文を残して出家遁世する。家人の 小太郎から、
 夫の形見と 花若の文を渡された妻は、二重の悲報に落胆し物狂いとなって旅に出る。
 思い立ち、母が向うのは信濃の善光寺。だが、偶然にも 花若修行中の寺も、善光寺
 であった。斯くて、喜びの母子再会を果たす。後段の、長大なクセが 見どころ聞き
 どころとなる。

 シテ 長島 茂 (50才) は、喜多流の中堅処で なかなかの力量・技量の持ち主。前回
  (第十一回/20.10.25) の、「野宮」の好舞台が強く印象に残る。今回も期待が大
 きい。結果は、長島の熱演と演出上の工夫もあって、素晴らしい舞台を堪能出来た。

 小書は付かないが、中入にアイを登場させたこと、物着のあと 舞 (「中之舞」) を
 入れたことが、演者の工夫である。
 シテ「あらいとほしや此の烏帽子直垂の主は、我が夫ながら …… 扇おつ取り、鳴る
 は瀧の水」と謡うと、次に「中之舞」が始まったので 正直驚いた。でも、この舞入
 が、クリ・サシから長大な クセ舞へと続き、まさに舞尽くしの展開で とても見応え
 あった。アイ (能力) 高野和憲の、語りを入れたことは悪くないが、話の内容につい
 ては検討の余地がある。

 名手が揃った囃子方、粟谷能夫率いる地謡陣は、ともに申し分ない出来。子方 貴成
 クンが、モジモジの動きがあったが長時間よく頑張った。
 2時間近い上演時間を、長く感じさせない、長島の意欲的且つ真摯な舞台であった。
  (115分)  178/1223

観能記 | 08:02:45 | コメント(0)
「能を知る会」
10月21日(水) 晴  「能を知る会」東京公演  於:国立能楽堂
                        開演 午後2時〜終演 5時25分
 中森晶三 一周忌追善能「能を知る会」東京公演で、能1番・狂言1番・仕舞4番の上演。
 見所は、6〜7分の入りである。中森貫太 (48才) が、亡父に大曲「求塚」を手向ける。
 
「求 塚」
  シテ/前 里の女・後 菟名日少女の霊 中森貫太 (観世流)
   シテツレ/里の女 遠藤喜久・古川 充
   ワキ/旅僧 殿田謙吉 ワキツレ/同行の僧 大日方 寛・梅村昌功
   アイ/里の男 竹山悠樹
   囃子方/笛 寺井久八郎・小鼓 大倉源次郎・大鼓 安福建雄・太鼓 観世元伯
   地謡/頭 観世喜之・副 五木田三郎 後見/主 津村禮次郎・副 長沼範夫

  典拠:「大和物語」「万葉集」 能柄:四番目・執心女物 所:摂津・生田
  季節:春・三月 作者:観阿弥

 主人公は、二人の男に同時に愛され死を選んだ、菟名日少女である。その後、二人の
 男も少女の塚の前で、ともに刺し違えて死んでしまう。
 前段の のどかな若菜摘み風景から、後段の陰惨な苦悩の場面へと、鮮やかな対比を
 なす。結末に救いがなく、突き放した手法が 古作の色彩が濃いという。観世流は、
 1951年 (昭和26年) に復曲上演。大小前に、引廻しの掛った塚の作り物を出す。

 シテ 中森貫太が、懸命に勤めた舞台であったが、力量不足は否めず、残念ながら期
 待した成果は上がらなかった。謡の声質は悪くないが、彼特有の発声は心地良い響き
 とならず、とても魅力ある謡とは云い難い。
 型や所作も、リアル感を強調するあまり、わざとらしい動きとなって、いささか品位
 を欠いた。

 そして、シテを支えるべき地謡が、むしろ足を引張った感がある。地頭 観世喜之、
 副地頭 五木田三郎、後列に 観世喜正を据える布陣であったが、地頭・副地頭が機能
 せず、喜正の甲高い声ばかりが耳について、厚味も響きもない誠にお粗末な地謡で
 あった。さらに、囃子方 寺井久八郎の、情緒のない笛の音色が一層拍車をかけた。
 全体に、演者の調和と一体感が不足して、観る側の心に響くもののない低調な舞台に
 終わった。
  (100分)  177/1222

観能記 | 20:22:34 | コメント(0)
「六郎兵衛記念」
10月20日(火) 晴  能楽笛方藤田流十一世宗家
             藤田六郎兵衛 舞台五十周年記念公演  於:国立能楽堂
                       開演 午後6時30分〜終演 9時10分
 能2番 (内 半能1番)・狂言1番・仕舞2番・一管1番の上演。
  本公演を 高円宮妃殿下もご観覧、見所は賑やかに満席である。
    藤田六郎兵衛 (56才);1980年 (昭和55年) 宗家継承;在 名古屋

「清 経」小書:恋之音取
  シテ/平清経の霊 観世清和 (観世流)   シテツレ/清経の妻 武田友志
   ワキ/淡津三郎 福王茂十郎
   囃子方/笛 藤田六郎兵衛・小鼓 曽和博朗・大鼓 安福建雄
   地謡/頭 梅若玄祥・副 関根祥人 後見/主 武田宗和・副 観世芳伸

  典拠:「源平物語」「平家物語」 能柄:二番目・修羅物 所:京・清経邸
  季節:秋・九月 作者:世阿弥

 主人公は、平家一門の敗将 若き公達 平清経で、豊前国・柳が浦の沖に身を投げ自ら
 命を絶った。残された妻の夢枕に現れた 清経は、合戦の様子や入水したいきさつを
 語り舞う。現世と幽界が交差する狭間に、夫婦の情愛と戦いの虚しさを詩情豊かに
 描いた名曲で、上演回数も極めて多い。23度目の観賞。

 小書:恋之音取は、シテ 清経の登場時、笛のアシライ吹きに長い間を入れる、特殊
 な奏演方法である。笛方の、一子相伝の重い習い。
 世情の喧騒に音を思わず、静寂に音を知る。まさに、業師 六郎兵衛独壇場の雰囲気
 作りだ。と、幽冥の世界から蕭然と現れ出る 清経の霊。
 シテ 観世清和 (50才) という上手を得て、この上ない情趣が見所に広がった。

 ツレ 清経の妻役に、若い 武田友志 (34才) を大抜擢。友志は、重い役に厳然と挑戦
 し良い味出した。囃子方は、少々小鼓が弱かったが巧く調和をとった。地謡陣は、
 地頭の 玄祥がきっちりとリードして心地良い響き。
 全体に、よくまとまった好舞台であった。
  (65分)  175/1220

「石 橋」小書:大獅子(半 能)
  シテ/白獅子 大槻文蔵 (観世流) 
   シテツレ/赤獅子 観世銕之丞・片山清司・観世喜正
   ワキ/寂昭法師 宝生 閑
   囃子方/笛 藤田六郎兵衛・小鼓 大倉源次郎・大鼓 亀井忠雄・太鼓 金春国和
   地謡/頭 浅井文義・副 馬野正基 後見/主 浅見真州・副 清水寛二

  典拠:「十訓抄」 能柄:五番目・本祝言物 所:中国・清涼山 
  季節:夏・四月 作者:不明

 主人公は、文殊菩薩の使いの霊獣 獅子四頭。大小前に、紅白の牡丹を戴いた山を
 置き、正先に、やはり紅白の牡丹を立てた一畳台を二基据える。

 半能の演出で、ワキ 寂昭法師の名ノリのあと、胸躍る乱序が始まり、獅子登場 (白
 獅子が山の中から、赤獅子三頭は幕内から) の場面展開となる。獅子達は小気味よい
 囃子に乗って、咲き乱れる牡丹に戯れ、豪壮華麗な獅子舞を見せる。
 アッという間の時間であったが、きらびやかで楽しい舞台であった。
  (20分)  176/1221

 今日は、藤田六郎兵衛 全開の記念公演であった。
 上記能2番の他、一管「中之舞」(六郎兵衛)、仕舞「遊行柳」(片山九郎右衛門)・
 「船弁慶」(梅若玄祥) も見事であったが、狂言「越後聟」(野村萬斎・野村万作・
 石田幸雄ら/ 囃子付き) が秀逸であった。越後獅子を舞う 萬斎の、身体能力を含めた
 彼の偉才振りに改めて感服した。
 また、番組の一番一番が変化に富み、何れも内容の充実した舞台で実に面白かった。
 来春、満を持して〈 藤田六郎兵衛が主宰する新しい観能の会『萬歳楽座』〉が立ち
 上がる。大いに期待したい。

観能記 | 10:47:13 | コメント(0)
「五雲会」公演
10月17日(土) 曇後雨  「五雲会」公演  於:宝生能楽堂
                        開演 午後12時〜終演 5時40分
 宝生流の十月「五雲会」公演で、能4番・狂言2番の上演。見所は、当初 7〜8分ほど
 の入りが、最後は 6分ほどに。「五雲会」は通常、能 4番立ての公演で、主に若手・
 中堅の能楽師が出演する。当方所用があり、能3番・狂言2番の観賞。

「橋弁慶」
  シテ/武蔵坊弁慶 渡邊茂人  
   子方/牛若丸 山内晶明 トモ/弁慶の従者 金井賢郎
   アイ/所の者 大蔵吉次郎・榎本 元
   囃子方/笛 藤田太郎・小鼓 鳥山直也・大鼓 内田輝幸
   地謡/頭 小林与志郎・副 田崎隆三 後見/主 登坂武雄・副 佐野 登

  典拠:「義経記」 能柄:四番目・斬合物 所:京・五条橋 季節:秋・九月
  作者:一説に 世阿弥

 主人公は、美少年 牛若丸に散々翻弄される、延暦寺西塔の荒法師 武蔵坊弁慶である。
 小品であるが、牛若と弁慶の斬り合いや、寸劇的なアイ狂言もあって、なかなか面白
 い曲。

 シテ 渡邊茂人 (36才) は、謡いや語りがやや気張り過ぎであったが、型や所作に切れ
 味があり、楽しい舞台を見せてくれた。彼は、宝生流期待の若手の一人である。
 子方 晶明クンの、元気一杯がとてもよかった。
  (50分)  172/1217

「斑 女」
  シテ/前 花子(遊女)・後 狂女(斑女) 小倉健太郎
   ワキ/吉田少将 宝生欣哉 ワキツレ/少将の従者 梅村昌功・野口能弘
   アイ/野上宿の長 大蔵弥太郎
   囃子方/笛 藤田朝太郎・小鼓 大倉源次郎・大鼓 柿原弘和
   地謡/頭 中村孝太郎・副 水上輝和 後見/主 前田晴啓・副 小倉伸二郎

  能柄:四番目・狂女物 所:美濃・野上〜京・下賀茂神社 季節:秋・七月
  作者:世阿弥

 主人公は、野上の遊女・花子である。
 吉田少将との一夜の契りが忘れられず、宿を追放された 花子は、取り交わした扇を
 胸に、物狂い (斑女) となって下賀茂神社にたどり着く。そこで、互いの扇を確かめ
 合い少将との再会を果たす。遊女の、ひたむきな恋を描いた人気曲で、上演回数も
 多い。13度目の観賞。

 シテ 小倉健太郎 (36才) が、恋に生きる一途な女を好演した。だが、謡は美声なが
 らやや線が細く、舞は小ぎれいにまとまっているが、少々味に乏しい。
 彼も、宝生流期待の若手の一人である。さらに修錬を積んで、芸力を高めていって
 ほしい。
  (85分)  173/1218

「鍾 馗」
  シテ/前 里人・後 鍾馗の霊 和久荘太郎
   ワキ/旅人 則久英志 アイ/所の者 大蔵千太郎
   囃子方/笛 成田寛人・小鼓 田邊恭資・大鼓 原岡一之・太鼓 小寺真佐人
   地謡/頭 渡邊筍之助・副 今井泰行 後見/主 大坪喜美雄・副 辰巳満次郎

  能柄:五番目・鬼物 所:中国・終南山付近 季節:秋・九月 作者:金春禅竹

 主人公は、進士に落ちて命を絶った 鍾馗という男。
 鍾馗が精霊となって現れ、宝剣で天下に乱を起こす悪鬼を亡ぼし、治世の到来を予
 祝するという、中国の伝説を主題とした曲。これまた小品であるが、激しい型・所
 作〈ハタラキ〉の変化があってなかなか面白い。あまり出ない曲で、2度目の観賞。

 シテ 和久荘太郎 (34才) が、軽快な動きと爽やかな謡で、見所を気持ちよくさせて
 くれた。彼もまた、宝生流期待の若手の一人である。
  (45分)  174/1219

 宝生流の若手の中には、将来が期待出来る能楽師が多くいる。当方の好みもあるが、
 何人かを挙げてみる。
  山内崇生 (41才)、野月 聡 (38才)、小倉健太郎 (36才)、渡邊茂人 (36才)、
  和久荘太郎 (34才)、小倉伸二郎 (34才)、薮 克徳 (34才)、高橋憲正 (32才)、
  辰巳孝弥 (30才)、宝生和英 (23才)
 その中でも、特に注目したい若手能楽師は、山内崇生、和久荘太郎、小倉伸二郎、
  高橋憲正、そして、若き宗家 宝生和英 である。

観能記 | 18:51:44 | コメント(0)
「国立定例公演」
10月16日(金) 晴  国立定例公演  於:国立能楽堂  
                     開演 午後6時30分〜終演 9時
 国立能楽堂10月の定例公演で、能1番・狂言1番の上演。見所は 満席である。

「江 口」小書:甲之掛
  シテ/前 里の女・後 江口の君の霊 観世清和 (観世流)
   シテツレ/遊女 坂口貴信・武田宗典
   ワキ/旅僧 森 常好 ワキツレ/従僧 森 常太郎・則久英志 
   アイ/所の者 野村 萬
   囃子方/笛 一噌庸二・小鼓 大倉源次郎・大鼓 亀井忠雄
   地謡/頭 野村四郎・副 岡 久広 後見/主 武田宗和・副 観世芳伸

  典拠:「撰集抄」「新古今和歌集」「古事談」 能柄:三番目・本鬘物
  所:摂津・江口の里 季節‥秋・九月 作者:観阿弥 原作・世阿弥 改作

 主人公は、江口の君の霊 実は普賢菩薩である。
 この曲は、秋の名曲と云われる大作で、9度目の観賞となる。

 「世の中を厭ふまでこそ難からめ 仮の宿りを惜しむ君かな」(西行法師)
 「世を厭ふ人とし聞けば仮の宿に 心とむなと思ふばかりぞ」(遊女)
 前場は、シテ (里の女) とワキ (旅僧) との、この歌問答から始まり、やがて、里の女
 は自らを、江口の君の幽霊と明かして消える。
 シテ 観世清和 (50才)・ワキ 森 常好 (53才) という、美声同士の歌問答・掛ケ合が
 まことに心地良い。シテは、紅入唐織着流の出立ち、面は増女 (節木系)である。

 (中入)アイ 野村 萬 (79才) が、江口の長が普賢菩薩となって現れた奇瑞を語る。
 萬の、じっくりと巧みな語りが秀逸。
 後場、月澄み渡る川面に、屋形舟 (一の松辺に 舟の作り物) に乗った、美しい三人の
 遊女が登場する。後シテは、白地舞衣渋橙色大口 (面は変わらず) の出立ちで、気品
 が匂い立つ美しさである。
 〈 クリ・サシ・クセ 〉で、現世の無常を位高く謡い、次いで、優雅に「序之舞」を
 舞い進める。やがて、江口の君の霊は普賢菩薩に変身し、舟は白象に転じて、菩薩を
 乗せ西方浄土へ消えて行く。

 名手揃いの囃子方の奏演に乗り、清和が静謐で格調高く「序之舞」を舞った。地謡
 陣の、艶と厚味のある謡いが舞台を盛り上げた。けだし、秋の夜に相応しい名舞台
 であった。
  (115分)  171/1216

観能記 | 20:08:38 | コメント(0)
「山井綱雄之會」
10月12日(祝) 晴  山井綱雄之會  於:国立能楽堂 
                      開演 午後1時〜終演 4時15分
 第四回「山井綱雄之會」の公演で、能1番・狂言1番・仕舞2番の上演。
  見所は、めでたく満員である。

「葵 上」
  シテ/六条御息所の生霊 山井綱雄 (金春流)
   シテツレ/照日神子 本田芳樹
   ワキ/横川小聖 宝生 閑  ワキツレ/臣下 則久英志
   囃子方/笛 一噌庸二・小鼓 幸 清次郎・大鼓 安福建雄・太鼓 金春惣右衛門
   地謡/頭 金春安明・副 吉場廣明 後見/主 高橋 汎・副 横山紳一

  典拠:「源氏物語」 能柄:四番目・鬼女物 所:京・左大臣邸  
  作者:世阿弥 改作

 主人公は、嫉妬に狂い屈辱を晴らそうと、生霊となって現れた 六条御息所である。
 正先に置かれた小袖が、病に臥せる 葵上を象徴する。現行曲の中でも、一二を争う
 人気曲で上演回数も極めて多い。24度目の観賞である。

 今日は、舞台照明をほとんど落し、「蝋燭能」という特殊演出での「葵上」の上演
 で、舞台周りの白洲に26本の燭台を立てる。見所は一切の照明を消しているので、
 勿論真っ暗である。舞台と橋掛りが、蝋燭の灯りにうすぼんやりと浮かび上がる。
 やがて、お調べが始まると、まさに異次元の世界に身を委ねる独特な雰囲気となる。

 シテ 山井綱雄 (36才) は、金春流に留まらず能楽界の中でも異彩を放つ存在である。
 当然のことながら、「能」を活動の中心に置いているが、現代演劇の出演や他ジャン
 ルアーティストとのコラボレーション活動などにも、積極的に参画している。
 能楽師としても、豊かな資質を持ち合わせており、将来を嘱望される若手のひとり
 である。

 今般主宰する個人演能会で、蝋燭の灯りで名曲「葵上」を上演するという企画を立
 て、大変な拘りと果敢な行動力で実現にこぎつけた。広い国立能楽堂の見所を、全
 席完売したのは立派である。

 さて、「蝋燭能」に対する評価であるが、初観賞か あまり能を観てない人には、
 相応の満足感を持てたかもしれない。この特殊演出は、幻想的な雰囲気作りには成
 功しているからだ。

 しかし、やはり暗すぎた。面の表情、装束の色合いもはっきりせず、ましてや細か
 い所作など判るはずもない。主宰者にとって、これらは折り込み済のことで、それ
 以上に、曲趣に沿った場面展開〈 暗闇から怨霊が現れ消えるとか・呪術的雰囲気を
 醸し出すとか・バトル場面での動きに陰影をつけるとか 〉の中で、暗さの効果が
 十分期待出来ると踏んだのであろう。これも、ある程度成功しているのは確かだ。

 観客にとって、舞台が暗くて見えない場合、注目するのは音である。視覚が不自由
 ならば、当然聴覚に頼ることになる。
 シテ方・ワキ方・狂言方の謡いと語り、地謡、囃子方の掛声・打音・笛の音色など
 の響きだ。これらが一体となって調和がはかられ、また、全体に適応する協調性が
 生まれれば、心地良い響きとなって観客の耳に届く。

 暗闇から発する音は、やわらかい方がよい。耳を劈く強音はなじまない。能は総合
 芸術と云われる。その意味でも、三役など演者の配役は慎重でありたい。
 然れど、この度の 山井綱雄の挑戦には、讃辞を惜しまない。
  (70分)  170/1215

観能記 | 09:15:17 | コメント(0)
「粟谷能の会」
10月11日(日) 晴  「粟谷能の会」  於:国立能楽堂
                      開演 午後1時〜終演 4時50分
 第八十六回「粟谷能の会」公演で、能3番 (内1番は半能)・狂言1番の上演。見所は、
 若干空席が散見されるが ほぼ満員である。

「通小町」
  シテ/深草少将の霊 粟谷明生 (喜多流)  
   シテツレ/里女実は 小野小町の霊 長島 茂  ワキ/僧 宝生 閑
   囃子方/笛 槻宅 聡・小鼓 大倉源次郎・大鼓 亀井広忠
   地謡/頭 友枝昭世・副 出雲康雅 後見/主 塩津哲生・副 粟谷浩之
  典拠:「清輔奥義抄」「古事談」 能柄:四番目・執心男物 所:京・八瀬〜市原野
  作者:観阿弥改作

 主人公は、百夜通いの深草少将であるが、小野小町も重要な役である。
 前場は、前ツレとワキのみ登場し、問答が中心の展開となる。後場は、後ツレのあと
 シテが現れ、僧の勧めで百夜通いの有様を、掛け合い風に演じてみせる。男のひたむ
 きな執心を描いた、二場ものの夢幻能で、舞はなく写実的な〈カケリ〉が見どころと
 なる。上演回数も多く、11度目の観賞。

 前場、夏安居の僧 宝生 閑 (74才) と、里女 長島 茂 (49才) との 問答・ロンギが、
 しっとりとして良い雰囲気を作る。ツレ里女は、紅無唐織・面は 深井か。小野小町
 をほのめかして僧の前から消える。観世流などで見慣れた、後見座でのクツロギは
 なく幕へ入る。(中入) 僧の独り言、閑のゆっくりと味わい深い語りが秀逸。

 後場、後ツレ 小町の霊が現れる。前ツレと異なり、紅入唐織・面は万媚か。次いで、
 シテ 深草少将の霊 粟谷明生 (54才) の登場となる。ところが、シテはなかなか姿を
 現さず、幕の中からの謡が長く続く。やや 明生の謡が弱く、この掛け合いはあまり
 面白くなかった。衣を頭から被り、腰を屈めて現れる演出の方が、怨霊の不気味さ
 は出る。シテは、黒頭水衣大口・面は痩男か。

 最大の見どころ、暗闇の雨の中の百夜通いの様を〈カケリ〉で見せる。囃子の静か
 な奏演に乗り、明生がゆっくりとした所作で、少将の無念さをリアルに表現する。
 明生らしい、精緻で巧みな舞である。ツレ 長島が好演、地謡は 些か一体感に乏し
 かった。
  (65分)  167/1212

「葛 城」小書:岩戸之舞
  シテ/前 里女・後 葛城明神 粟谷能夫 (喜多流)
   ワキ/山伏 森 常好 ワキツレ/同行山伏 舘田善博・森 常太郎
   アイ/葛城山麓の者 野村扇丞 
   囃子方/笛 一噌仙幸・小鼓 曽和正博・大鼓 國川 純・太鼓 金春国和
   地謡/頭 香川靖嗣・副 大村 定 後見/主 内田安信・副 高林白牛口二

  典拠:「日本霊異記」「今昔物語」 能柄:三番目物 所:大和・葛城山
  季節:冬・十一月 作者:世阿弥

 主人公は、里女実は 葛城山の女明神である。
 深山雪深く、白一色を背景とした舞台設定は、古代の神話を絡めて、詞章に多くの
 古歌を引用した神秘的な曲である。比較的多く上演され、10度目の観賞。

 シテ 粟谷能夫 (60才) の前場は、ほとんど見応えのない舞台。だが、小書:岩戸
 之舞を中心とした後場は、見違えるように素晴らしい舞台となった。女神出立
 〈紅葉天冠・白地舞衣・緋指貫・面は増か〉の姿が美しく、イロエ掛りの舞「岩戸
 之舞」が、格別に品よく神々しかった。
  (90分)  168/1213

「石 橋」小書:連獅子 (半能)

  シテ/親獅子 粟谷明生  シテツレ/子獅子 粟谷浩之
   ワキ/寂昭法師 殿田謙吉
   囃子方/笛 一噌幸弘・小鼓 鵜澤洋太郎・大鼓 柿原光博・太鼓 観世元伯
   地謡/頭 粟谷能夫・副 出雲康雅 後見/主 粟谷辰三・副 粟谷幸雄

  典拠:「十訓抄」 能柄:五番目・切能物 所:中国・清涼山 季節:夏・四月
  作者:不明

 主人公は、文殊菩薩の使いの獅子。
 小書:連獅子により、白の親獅子・赤の子獅子が現れて、紅白の牡丹 (正先に置か
 れた一畳台二基) に舞い戯れる。
 親獅子の 明生、子獅子の 粟谷浩之 (42才) が、小気味よい囃子の奏演に乗って、
 胸のすくような鮮やかな連舞を見せてくれた。
  (20分)  169/1214

観能記 | 16:35:43 | コメント(0)
「国立普及公演」
10月10日(土) 曇  国立普及公演  於:国立能楽堂  
                      開演 午後1時〜終演 3時25分
 10月の国立能楽堂普及公演で、能1番・狂言1番の上演。見所は、若干の空席あるが
 ほぼ満員である。

「綾 鼓」
  シテ/前 庭掃きの老人・後 老人の怨霊 松野恭憲 (金剛流)
   シテツレ/女御 廣田泰能  ワキ/臣下 殿田謙吉 アイ/従者 大蔵吉次郎
   囃子方/笛 一噌庸二・小鼓 林 光壽・大鼓 柿原崇志・太鼓 三島元太郎
   地謡/頭 今井清隆・副 宇高通成 後見/主 廣田幸稔・副 豊嶋幸洋

  能柄:四番目・執心男物 所:筑前・木の丸御所 季節:秋・八月 作者:不明

 主人公は、女御を一目見て恋に落ちた、御所の庭掃き老人である。
 池辺の桂の木に掛けた鼓の音が、御所に聞こえたら女御が姿を見せるとの約束に、
 老人は必死に鼓を打つが鳴らない。綾絹張りの鼓が鳴るはずもなく、絶望した老人
 は池に身を投げる。だが、池中から死霊となって現れると、女御に鳴らぬ鼓を打て
 と さんざん打擲する。やがて、女御に執心の恨みを残しつつ、悪蛇となって水底
 深く消えて行く。

 世阿弥の「能作書」に、「戀の重荷、昔の綾の太鼓也」とあって、本曲は この
 「綾の太鼓」を改作したものとか。「綾の鼓」は 金剛・宝生流にあり、喜多流の
 それは詞章に著しく異同がある。観世・金春流には、類曲「恋の重荷」がある。
 正先に、立木に鼓を付けた台の作り物を置く。執心男物の劇能で、6度目の観賞と
 なる。因に「恋の重荷」は 8度観ている。

 シテ 松野恭憲 (69才) は、金剛流のベテランでスケールの大きな芸が持ち味。
 だが、巨体を支える足腰の衰えは近時隠しようもない。一方、声は衰えず艶のある
 謡は相変わらず強い。本曲の曲趣は、松野の芸風に相応しいと思うが、随所にハラ
 ハラする場面〈 下居に尻椅子をあてがい、立つ際にバランスを崩し、ハコビや
 足拍子に上体がぐらつく 〉が見られ、全体を安心して観られる舞台ではなかった。
 しかし、笞を振り上げ、女御を責め立てるリアル感は凄かった。
 金剛地謡の、厚みと重量感のある響きが素晴らしい。
  (70分)  166/1211

観能記 | 19:47:39 | コメント(0)
「銕仙会定期」
10月9日(金) 晴  銕仙会定例公演  於:宝生能楽堂  開演 午後6時〜終演 9時
 10月の銕仙会定例公演で、能2番・狂言1番の上演。見所は、若干空席があるが ほぼ
 満員である。

「鳥追舟」小書:大返
  シテ/日暮の某の 北ノ方 大槻文蔵 (観世流)  子方/花若 小早川康充
   ワキ/日暮の某 宝生 閑 ワキ/家臣 左近尉 宝生欣哉
   アイ/日暮の某の供人 深田博治
   囃子方/笛 一噌仙幸・小鼓 大倉源次郎・大鼓 亀井忠雄
   地謡/頭 浅見真州・副 若松健史 後見/主 野村四郎.副 北浪昭雄

  能柄:四番目・狂女物 所:薩摩・日暮の里 季節:秋・九月 作者:不明

 主人公は、訴訟のため都に十余年も留まる、領主日暮の某の北ノ方 (妻) である。
 留守を預かる家臣 左近尉は、領主の妻子 (北ノ方・花若) を守り養っている。だが、
 余りにも長期にわたる主君不在に、如何に忠臣と云えども我慢が限界を超える。
 この秋人手不足もあって、賤しき業 (田を荒らす鳥追いの仕事) を 花若に言い渡す。
 人目を恥じながら、鳥追舟に乗り 狂おしく群鳥を追い立てる母と子。
 一方、訴訟事の解決で帰国の途についた 日暮の某が、その事実を知って激怒し、
 左近尉を成敗しようとする。しかし、妻に諌められ、自らの非も認めて 左近尉を
 許す。

 一場物の現在能で、北ノ方・花若・日暮の某・左近尉 が絡み合って、劇的展開を
 楽しめる作品である。中入後、笹竹を立て羯鼓を付け、鳴子で飾った「鳥追舟」の
 作り物を出す。ワキ方の大役 左近尉を、日暮の某とともに両ワキとする。あまり
 出ない曲で、2度目の観賞。

 シテ・子方・両ワキの演者に、演技力・芝居心がないと この曲は勤まらない。
 その点、シテ 大槻文蔵 (67才)・子方 小早川康充 (12才)・ワキ 宝生 閑 (75才)・
 ワキ 宝生欣哉 (42才) の配役は まさに適役。役者が揃って、実に面白い舞台を見せ
 てくれた。
  (70分)  164/1209

「邯 鄲」  
  シテ/盧生 鵜澤 久 (観世流)   子方/舞童 後藤眞琴
   ワキ/勅使 殿田謙吉 ワキツレ/輿舁 宝生欣哉・御厨誠吾 /大臣 大日方 寛・
    野口能弘・梅村昌功 アイ/宿の女主人 高野和憲
   囃子方/笛 藤田六郎兵衛・小鼓 幸 正昭・大鼓 佃 良勝・太鼓 観世元伯
   地謡/頭 山本順之・副 浅井文義 後見/主 観世銕之丞・副 永島忠侈

  典拠:「枕中記」「太平記」 能柄:四番目・唐物 所:中国・邯鄲の里
  作者:不明

 主人公は、人生の真理に迷う青年 盧生である。
 聖僧を尋ねて、蜀の国から楚の国羊飛山に向う。途次、立寄った宿の女主人に勧め
 られ、不思議な枕で暫しの眠りにつく。突如、楚の国の王位に即き、酒宴で舞に興
 じ、栄耀栄華の限りを尽くす。しかし、五十年の栄華は、粟飯が炊けるほどの時の
 経過、全ては夢の中の出来事であった。眠りから覚めた 盧生は、悟りを得て故郷に
 帰って行く。脇座の一畳台上に、作り物の「引立大宮」を置く。人気曲で、14度目
 の観賞。

 シテ 鵜澤 久 (59才) は、女流能楽師の実力ナンバーワン。今日も、ケレン味のない
 真摯な演技で 見所を魅了した。
 豊かでふくよかな謡、小柄ながら男性顔負けの 舞・型・所作 の切れ味、内なる
 気合いも充実して、悩める青年 盧生を 瑞々しく舞った。
  (80分)  165/1210

観能記 | 11:18:52 | コメント(0)
「能楽研鑽会」
10月5日(月) 雨  能楽研鑽会  於:国立能楽堂  開演 午後4時〜終演 7時10分
 独立行政法人 日本芸術文化振興会主催の、第十七回「能楽研鑽会」で、プロの能・狂言
 役者として修行中の若手、研修生・研究生の発表公演である。能1番・狂言1番・舞囃子
 5番・間語1番の上演で、入場料は無料。見所は、7〜8分の入りである。
 出演者は、研修生 3・研究生 29の計 32名、賛助出演 21を入れて総勢 53名である。

「花 月」
  シテ/花月 小倉伸二郎 (宝生流)
   ワキ/旅僧 御厨誠吾 アイ/門前の者 石田幸雄
   囃子方/笛 栗林祐輔・小鼓 大山容子・大鼓 佃 良太郎
   地謡/頭 今井泰行・副 野月 聡 後見/主 宝生和英・副 渡邊茂人

  能柄:四番目・芸尽物 所:京・清水寺境内 季節:春・二月 作者:不明

 主人公は、花月と名乗る遊芸人の美少年である。
 父と子の再会劇であるが、花月が見せる〈恋の小歌・弓ノ段・クセ舞・羯鼓ノ舞〉 
 などの芸尽くしが、見どころ聞きどころとなる。

 シテ 小倉伸二郎 (34才) が、軽やかな謡と舞で、若々しく楽しい舞台を見せてくれた。
 それに、弾むような地謡の響きが心地良かった。また、囃子方の研修生が健闘した。
  (50分)  163/1208

 今日の出演者、研修生がたったの 3名は寂しいが、研究生 29名の中には、本舞台を
 既に何回も踏んで活躍中の者が多数いる。技量は未熟ながら、彼らのエネルギッシュ
 でアグレッシブな舞台態度はまことに美しい。さらに修錬を積んで、能楽界を支える
 勢力になって欲しい。
 今日の舞台で、特に目についた研修生・研究生は、狂言「八島」アイ語り 村井一之、
 舞囃子「野守」坂口貴信、同「養老」大槻崇充、囃子方 笛 栗林祐輔、同 小野寺竜一、
 小鼓 田邊恭資 らである。

観能記 | 10:36:43 | コメント(0)
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